まずはこちらの問題をご覧ください。
これは、第99回薬剤師国家試験の第181問、病態・薬物治療からの出題です。
正解がわかりますでしょうか。
答えは「4」の7.2です。
え!5じゃないの!
そもそも何が起こってるかわからん!
肯定ペンギン君のように、「糖尿病性ケトアシドーシスが起きているため、pHが酸性に傾いている5」と考えた人や、否定ペンギンちゃんのようにそもそも糖尿病性ケトアシドーシスが起きていることを見抜けなかった方がいらっしゃるのではないでしょうか。
それでは、なぜ答えがpH 7.2になるのかを見ていきましょう。
血液pHの正常範囲
まずは、血液のpHの正常範囲について考えましょう。
正常な血液のpHはわずかに塩基性の7.4とされています。
また、正常範囲は7.35~7.45の間です。
この血液のpHは、正常範囲から少し外れただけでも多くの臓器に影響を及ぼすため、厳密に調整されています。
また、pHが正常な状態では弱酸(炭酸)と弱塩基(重炭酸イオン)がペアになり、緩衝作用が働いており、酸性もしくは塩基性に急激に変化することを防いでいます。
この酸塩基平衡が異常をきたした場合に、「アシドーシス」と「アルカローシス」が発生します。
・アルカローシス:pH 7.45より高いpH
アシドーシスの場合の酸塩基平衡については、第102回 問97にもこんな問題が出題されております。
こちらは、Henderson-Hasselbalchの式から水溶液中の分子形(H2Co3)とイオン形(HCO3–)の割合を求めることができ、答えは4の16となります。
糖尿病性ケトアシドーシスの病態
次に、実際の病態及び検査結果を見ていきましょう。
まず、「小児期より、インスリンの皮下注射を毎朝施行」という記載より、既往歴に糖尿病があることがわかります。
また、尿糖(+++)及びケトン体(+++)より、糖尿病性ケトアシドーシスによる昏睡を起こしていることが考えられます。
ケトアシドーシスにより、血圧は低下し、頻脈を呈する場合もあります。
この代謝性アシドーシスを肺での呼吸により緊急的に是正しようとするために早く深い呼吸になることがあります。(クスマウル呼吸)
以上のことより、血液のpHは酸性に傾いていると考えることが出来ます。
血液のpHの正常範囲は7.35~7.45のため、答えは4か5に絞られます。
血液のpHは、正常範囲から少し外れただけでも多くの臓器に影響を及ぼします。すなわち、pHが6.0になっていた場合、通常死に至ることが考えられます。
そのため、この問題の答えは4と考えられます。
→少しでも外れていた場合、多くの臓器に影響を及ぼす
・高血糖
・高ケトン血症
・血圧低下、頻脈、大きく深い呼吸(クスマウル呼吸)
・アセトン臭(ケトン体増加による甘酸っぱい臭い)
まとめ
国家試験の問題から、血液pHの正常範囲及び糖尿病性ケトアシドーシスについて見てきました。
ヒトの体は平衡を保っており、正常範囲から外れると異常をきたし、それらは検査結果にあらわれてきます。
しかし、そもそもの正常値がどれくらいなのかを知らないことには、その値が問題であるのかそうでないのかを判断することが出来ません。
今回取り上げた問題に関しても、血液のpHが6.0という値を聞いたときに、「そんなのありえない」と思えなければ、選択肢の5を除外することが出来ません。
病態や検査値を考えるときに、どれくらいの値であれば問題がないのか、オーダーや許容範囲はどれくらいなのか、という目線を持つことが重要だと思います。
この1問が、そのようなことを考えるきっかけになればいいと思って取り上げました。
それではまた!
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