保護メガネつけよっか
表紙の女性には、こう突っ込みたくなりますが笑
それを抑えてまずはこちらの1H-NMRの問題をご覧ください。
これは、第100回薬剤師国家試験の第108問、化学からの出題です。
みさなんいかがでしょうか。この問題、意外と迷うポイントが多く、難しいと思います。
正解は「2, 3」です。
TMSってなんだよ!トリじゃなくてテトラなのかよ!
てか、4じゃないのかよ!
クロロホルムは7.3くらいに出るってならったぞ!
否定ペンギンちゃんのように、選択肢1, 4に騙された人も多いのではないかと思います。
この問題を解くためには、1H-NMRの基礎から応用まで、様々な知識を持っていることが試される良問であると思うため、以降解説をしていきます。
1H-NMRの基礎条件
400MHzは磁場の強さをを1Hの共鳴周波数で表したもの
CDCl3は、溶媒となるクロロホルムの水素を重水素(D)で置換したもの
TMSとはテトラメチルシランの略だよ!
1H-NMRを行った時、問題文1行目には「400MHz, CDCl3, 基準物質はTMS」とあります。
この部分について、あまり深く考えてこなかった学生も多いのではないかと思います。
まず、400MHzというのは、磁場の強さをを1Hの共鳴周波数で表したものとなります。
他にも500MHzや600MHz等の機器があり、一般に磁場が高いほど分解能が上がります。
次に、CDCl3というのは、溶媒となるクロロホルムの水素を重水素(D)で置換したものです。
重水素で置換された水素のシグナルは1H-NMRには現れません。
多くのプロトンが含まれた溶媒を使用すると、その溶媒のプロトンもピークとして出てしまい、本当に得たい資料化合物のピークが埋もれてしまいます。
また、CDCl3を溶媒として用いるのには下記の理由があります。
・沸点が低く、溶媒を除去してサンプル回収が可能
・大抵の有機化合物を溶解することが出来る
→資料がCDCl3に溶解しない場合は他の溶媒(DMSO等)を用います。
ただし、CDCl3と比較した時、値段も沸点も高いため可能な限りCDCl3で済ませます。
最後に、TMSとはテトラメチルシランの略で、Si(CH3)4となります。
1H-NMRの化学シフト値は、このTMSのメチル基の水素を基準(δ=0)として表されます。
また、この化学シフト値については、どのような構造がどれくらいのところに出るのか、おおよその値が分かっております。学校では、ベンゼン環についた水素は7 ppmあたり、Oについたメチル基の水素は4 ppmあたり、Nについたメチル基の水素は3.5 ppmあたりと習った方もいるのではないでしょうか。
ここまでの知識で、選択肢1を見ていきましょう。
「1 基準物質として用いられる TMS は、トリメチルシランである。」
この問題を解くカギは2つあります。
・「テトラ」であることを知らなくても、基準ピークであることを知っている
もしくは、図よりピークが一本しか出てないことを確認する
→仮にTMSがトリメチルシランだとすると、(CH3)3SiHとなり、水素が2種類存在してしまうため、問題の図のような1本の線にならない。
クロロホルムの水素は確かに7.3付近にでますが、重水素のシグナルは出ません。
これは、重水素に含まれるクロロホルム(CHCl3)のシグナルが出たものと考えられます。
よって、選択肢1と4を排除することが出来ます。
ピーク面積・化学シフト値
簡単に言うと水素の数だよ!
1H-NMRは定量性が高いです。
ピーク面積比を求めることで、同じ環境にあるプロトン存在比を算出できます。
この問題の場合、1つのH、2つのH、3つのHが含まれているということがわかります。
また、化学シフト値は前述している通り、どのような構造がどれくらいのところに出るのか、おおよその値が分かっております。
・化学シフト値は大体決まっている
芳香環についたH:7~8 ppm
Nに隣接したCについたH:3~3.5 ppm
Oに隣接したCについたH:3.5~4 ppm
ここまでの知識で選択肢2を見ていきましょう。
「2 インドール環2位のメチル基のシグナルは、図Aのアである。」
まずアイウについて、化学シフト値が2~4 ppmの間にあることから、アルキル基の水素であるという推測が出来ます。
イは水素の数が2のため、インドール環3位のアルキル基の水素です。
アとウは水素の数が3のため、インドール環2位のメチル基もしくはインドール環5位のメトキシ基となります。ここで、インドール環5位のメトキシ基のHはOに隣接したCについたHのため、4 ppmに近いウであると判断できます。そのため、アがインドール環2位のメチル基の水素となります。
カップリング
カップリングと言って、隣の水素の数+1本に分裂するよ!
1H-NMRでは、プロトンの隣にn個の等価プロトンが存在すると、n+1本に分裂します。
これをカップリングといい、分裂した数によって下記のように表します。
1本:(s、シングレット)
2本:(d、ダブレット)
3本:(t、トリプレット)
4本:(q、カルテット)
多数:(m、マルチプレット)
また、芳香環でのカップリングは少々複雑となり、オルト位およびメタ位水素との相互作用による結合定数の解析が重要となります。(パラ位は観測されないことが多い)
ここまでの知識で選択肢5を見ていきましょう。
「5 図Aのオのシグナルとクのシグナルは互いにカップリングしている。」
ケとクのシグナルについてみた時、どちらも2Hとなっているため、フェニル基に付いている水素であることが推測できます。これらの水素がカップリングをしているため、互いにカップリングしているのはオとクではなく、ケとクになるため誤りです。
おまけ
ここまで見てきた知識で、1, 4, 5が誤り、2が正解の選択肢であることを導き出すことができ、消去法により3も正解であることがわかると思います。
本番であれば、このように解いていくのももちろんありだと思います。
エ・オ・カがそれぞれどのプロトンであるかまできちんと区別したい!
肯定ペンギン君のように、読者の中には、エ・オ・カがそれぞれどのプロトンであるかまできちんと区別したいという方もいらっしゃると思います。
これらのプロトンを区別するには、先ほど少し触れた芳香環でのカップリングについて知る必要があります。
(パラ位では観測されないことが多い)
・oカップリングとmカップリングでは、o位の方が大きく割れる(距離が近いため)
pカップリングは起こしていないと仮定すると、下記のようになります。
6位:4位とmカップリング・7位とoカップリング
7位:6位とoカップリング
エは2つに割れた後(oカップリング)、さらに2つに割れている(mカップリング)ため、6位の水素であると推測できます。
オは大きく2つに割れているため、7位の水素であると推測できます。
カはオと比較して小さく2つに割れているため、4位の水素であると推測できます。
これらより、3の選択肢が正しいことを導くことが出来ます。
まとめ
第100回の問108を通して、1H-NMRの様々な知識を見てきました。
この問題にはあらゆる要素が含まれており、1H-NMRを理解するうえでかなりの良問であると思います。また、1H-NMRが得意だと思っていた方にとっても、足をすくわれる部分があったのではないかと思います。
1問解くために覚える量多すぎ!
否定ペンギンちゃんのいうように、この問題を解くための知識量はとても多く、他の1問と比較してコスパが悪い、だからNMRは捨てよう、と考えてしまう学生もいらっしゃるかもしれません。
ただしNMRは一度理解してしまえば、どんなNMRの構造決定の問題にも応用が効きます。
そのため、一度この問題で理解をして、確実に1点が取れる、という自信をつけていただく方がいいかと私は思います。
この記事がNMRを理解するための一助となりましたら幸いです。
それではまた!
コメント