2021年2月20日・21日に、二日間にわたって第106回薬剤師国家試験が実施されました。
今年度はコロナ禍ということもあり、例年通りにはいかないことも多く、みんなで集まって勉強したり、自習室やカフェで勉強したり出来ず苦労した、という学生も多かったのではないかと思います。
日本でも昨年から流行してる新型コロナウイルスですが、薬剤師国家試験にもそれを意識しているのではないかと考えらえる問題がいくつか出ていたので、紹介したいと思います。
なお、第一弾はこちらの記事で紹介しているため、あわせてお読みいただけると嬉しいです。
問324-325(法規・制度・倫理、実務)
まずはこちらの問題をご覧ください。
問324-325
震度7の地震が発生した。避難所では、臨時の診療所が開設されており、薬剤師が災害救助要員として参加した。この地域では、吐き気や咽頭痛の症状と共に微熱や悪寒が見られるというウイルス感染症が流行し始めていた。この感染症について、避難者の間ではSNS(Social Networking Service)などで、不正確な感染対策の噂が広まっていた。
問324
避難者から「感染対策について色々な噂を聞いて不安になった」と相談を受けた薬剤師の対応として、適切でないのはどれか。1つ選べ。第106回薬剤師国家試験問324-325より
1 現時点で判明していること、していないことを整理して伝えた。
2 薬剤師は法的に薬に関する相談以外には答えることが出来ないと伝えた。
3 避難者が聞いた噂や不安になった理由について傾聴した。
4 避難者が不安になった理由について他職種と共有した。
5 これからも不安なことがあれば遠慮なく相談して欲しいと伝えた。
問325
その後、このウイルスはノロウイルスであることが判明した。この薬剤師の感染対策に関する対応として適切なのはどれか。2つ選べ。
1 グルタラールでうがいを励行するよう指示した。
2 クロルヘキシジングルコン酸塩はノロウイルスの消毒には有効でないと説明した。
3 メタノールで手指の消毒をするよう指示した。
4 床に嘔吐物が付着した場合は、塩素系漂白剤を使用して消毒するよう指示した。
5 石鹸とベンザルコニウム塩化物の配合液が消毒に有効であると説明した。
時代だな・・・
チョコプラのネタかよ・・・
否定ペンギンちゃんの言う通り、SNSで不正確な情報が拡散・・・どこかで聞いたことのあるような話ですね。
この問題の解答を考えてみてください。
解答
それでは1問ずつ見ていきましょう。
問324は、薬学の勉強をしていない方でもなんとなくで解けてしまうのではないかと思います。
明らかに「2」だけ、薬剤師として適切でない対応であるため、こちらが正解となります。
私は薬以外の質問には答えません!
こんな薬剤師は嫌だ・・・
問325は消毒薬に関する知識が必要となります。
消毒薬はその作用の強さによって「高水準・中水準・低水準」の3つに分けられます。(スポルディング分類と呼ばれます)
分類 | 定義 | 具体例 |
高水準 | 細菌芽胞が多数存在する場合を除き、全て の微生物を死滅させる | ・グルタラール ・フタラール ・過酢酸 |
中水準 | 細菌芽胞以外の結核菌、栄養型細菌、多く のウイルス、真菌を殺滅させる | ・次亜塩素酸ナトリウム ・ポピドンヨード ・アルコール |
低水準 | ほとんどの細菌、一部のウイルス・真菌は 殺滅させるが、結核菌や細菌芽胞は殺滅で きない | ・クロルヘキシジン ・塩化ベンザルコニウム ・両性界面活性剤 |
1は、高水準のグルタラールは人体に用いないため誤答となります。
2は、低水準のクロルヘキシジングルコン酸塩は、ノロウイルスの消毒には無効のため正解となります。
3は、メタノールは人体に有害のため誤答となります。
4は、ノロウイルスに塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)は有効のため正解となります。
5は、石鹸とベンザルコニウムの配合液は無効のため不正解となります。
これらは、上の分類を覚えておくだけで正解を導けるため、各消毒薬の分類は必ず覚えておくようにしましょう。
各消毒薬の分類
高水準
・主に病院で内視鏡等に使用
→毒性が強いため人体には使用しない。また、十分な換気が必要。
グルタラール・フタラール・過酢酸
グルタラールと過酢酸は芽胞に対する殺滅力があります。
<消毒対象>
・内視鏡
フタラールはグルタラールと過酢酸と比較し、その効果は比較的弱いです。 これらは主に病院内で内視鏡の消毒に用います。その毒性は強く、人体に使用することは出来ません。
中水準
・結核菌に有効
・用途は消毒薬によりそれぞれ異なる
次亜塩素酸ナトリウム
次亜塩素酸ナトリウムは強力な作用を持つ消毒薬で、芽胞を含むすべての微生物に有効です。
ただし、有機物の存在で効力低下が生じやすいため、中水準に分類されております。
<消毒対象>
・「食」関連の用具
・環境
→一般細菌には0.01%、ウイルスや芽胞には0.1%での清拭
ただし、次亜塩素酸ナトリウムは金属腐食性が強いため、金属には適しません。
ポピドンヨード
ポピドンヨードは結核菌、ウイルス、真菌、一般細菌等に有効です。
<消毒対象>
・術野
・創部
・粘膜
ポピドンヨードは正常皮膚、粘膜および創傷などの消毒に用いられます。
アルコール
アルコール(消毒用エタノール、70%イソプロパノール)は細菌芽胞を除くすべての微生物に有効です。
<消毒対象>
・正常皮膚
・環境
→刺激性があるため、粘膜や損傷皮膚には禁忌です。
ほぼ同等の消毒効果を示しますが、親水性ウイルス(ノロウイルス等)に対する効果はエタノールの方が高い
・エタノールの殺菌効果の至適濃度範囲
日本薬局方:76.9~81.4 v/v%(私は、「なあムック、はいよー」と暗記しました)
・メタノールは有害!
燃料として使われる工業用のアルコールのため、同じアルコールでも消毒薬には使用しません。
吸入や誤飲により、吐き気、めまい、意識障害を起こす恐れがあるほか、失明や死亡の危険性もあります。
低水準
・一般細菌等に有効
まとめ
この問題を見た時は、現代日本に発生する可能性がある問題を示唆しているように感じました。
震度7の地震、未知のウイルスに対する対策、SNSでの不確実な情報拡散・・・と、テーマがいくつも盛り込まれているように感じました。SNSによるデマの拡散によりトイレットペーパーやマスク、消毒薬といったものが買い占められ、商品棚から姿を消す時期もありました。
今回の問題は結果的に「ノロウイルス」であることが判明しておりますが、第107回国試でもこういったウイルスに対する対応や、薬剤師としての在り方、消毒薬の知識というのは問われる可能性があると思います。
この問題を通して、消毒薬やウイルス・細菌等の知識を再確認し、薬剤師としての在り方を考えるきっかけになればいいと思いこの問題を紹介しました。
それではまた!
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